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ベースサイズの作成
7.ベースサイズの作成
ベースサイズとは、設定スケールの主音(最低音)が正確にチューニングされた管サイズ(有効長さと内径)で、下図のように歌口と管尻穴のみが加工された竹製フルートの基本形状を指します。
ベースサイズ(注:1)の設定は、フルートの基本形状とその主音(最低音)を決める最も重要な作成プロセスです。
ここでは以下のステップに従って竹製フルートのベースサイズ(基本形状)を作成します。
Step-1. 各スケール近似サイズ表から、作成するフルートの形状に該当する近似サイズをピックアップします。
Step-2. そのサイズに合った管の内径寸法を選択します。
Step-3. 管の内径寸法に応じた適正サイズの算出(近似サイズ値の補正)を行います。
Step-4. フルートの基本形状をデザインし、ベースサイズの加工を行います。
Step-5. 作成したベースサイズの主音(最低音)のピッチを確認し修正します。
注:1 ベースサイズは造語です。
 Step-1. 作成するフルートの近似サイズを選択
以下の表は、2種類の竹製フルート(管尻穴有り・管尻穴無し)の近似ベースサイズ(管尻~反射板間)の値です。
基準となるベースサイズの値(注:2)を、各音名の平均律周波数比の値と対比させることにより、各スケールの近似サイズとして算出したものです。
注:2 自作のFスケール適正ベースサイズ値: (管尻穴有りタイプ=420mm)(管尻穴無しタイプ=448mm)
先ずは、この表の中から作成するフルートの形状(注:3)と、該当するスケールの近似サイズを選択してください。
注:3 以降の各Chapterでは、Fスケールをベースサイズとして説明しています。
◆ 管尻穴有り ... ケーナのように管尻穴が有るもの
各スケール近似サイズ(F管基準)
A.S (Unit: mm)
◆ 管尻穴無し ... 一般的なフルートや横笛のように管尻がオープン(ストレート)のもの
各スケール近似サイズ(F管基準)
A.S (Unit: mm)
 Step-2. 作成するフルートの適合内径を確認
選択した管サイズの音域とオクターブチューニングを確保する為に、そのサイズに合った管の内径寸法(注:4)を選択することが必要で、 通常は管の長さが長くなるほど、即ち、主音(最低音)が低くなるほど、管の内径を大きく設定します。
◆ 各スケールの適合内径(C.I.D)は、そのスケール(主音)の周波数比を基に次の数式にて算出しています。
C.I.D ≒ 24.0 ÷ 主音の平均律周波数比値
C.I.D (Unit: mm)
各I.D値は、C4~C5の音域で採用する実用的な管径の範囲を、最大φ24mm ・ 最小φ12mmと仮定し、それを平均律に於ける各スケール音高の周波数比に配分したものです。 但し、これらは、あくまでも私個人が目安としている参考値で有り、この値が他の同じような形態の管楽器に当て嵌まる訳では有りません。
注:4 竹製フルートの形状は、一般的に円錐形(テーパー)となっている場合が多く、歌口側~管尻間の内径の平均値をこの場合の適合内径(C.I.D)とします。 又、竹材の形状は、真円ではなく歪(いびつ)であったり、或いは、管の片方が塞がれており内径寸法の確認が難しい為、この判断は主観的なものとなります。
 Step-3. 適正サイズの算出 (近似サイズ値の補正) ... 内径を変更する場合のみ必要
近似サイズ表の各値は、完成したF管フルートのベースサイズ(管長=420mm/内径=18mm)を基準値として算出されたものなので、もし、実際に作成するフルートの内径(I.D)を変更する場合は、近似サイズ値(管尻~反射板間)を補正する必要が有ります。
◆ 適正サイズ(R.S)は、経験に基づいた補正値を設定することで算出しています。
R.S≒ 近似サイズ+(近似サイズ×(近似サイズ内径-作成する管の内径)×0.75/100)
ex1. F管の内径をφ20mmに変更する場合のR.S → 420+(420×(18-20)×0.75/100)≒414mm
ex2. F管の内径をφ17mmに変更する場合のR.S → 420+(420×(18-17)×0.75/100)≒423mm
上記の例では、作成スケールの近似サイズ内径の値(F4管の基準値: 18mm)に対して、作成する材料の内径を大きく変更した場合は、近似サイズ値が短くなり、内径を小さくした場合は、近似サイズ値が長くなるように補正されました。
内径変更によるF管フルートサイズ補正例(完成品)
尚、この補正は、F管フルートを基準として±全音程度(E♭4~G4)の範囲のものに適用されます。それ以外のスケールの場合は、その周辺のスケールで作成チューニングされたベースサイズの内径が基準となります。
 Step-4. ベースサイズ(竹製フルートの基本形状)のデザインと加工
前項の「近似サイズ値の補正」で算出した「適正サイズ」を基に、下記何れかのタイプのベースサイズの各部寸法をデザインしてください。
【管尻穴有りタイプ】
【管尻穴無しタイプ】
下図のような ベースサイズ作成チャート pdf)を用意しましたのでご利用ください。
 管尻部の加工
◆ 右図は、「管尻穴有りタイプ」の管尻部基本寸法です。
竹材の種類にも依りますが、できるだけこの図の寸法許容値内で管尻部の形状を加工するようにしてください。
尚、指穴位置の設定(Chapter 8)で使用する「指穴位置計算表」では、管尻部の寸法(10±3mm)が もう少し小さな値(7±1mm)に設定されており、その端面がエクセル表計算の基準面となります。
管尻部を長めのデザインにしても構いませんが、管尻部の寸法(10±3mm)や節(ふし)の壁厚(5±1mm)を大きくし過ぎると、結果として全体に指穴径が小さくなったり、操作性やオクターブ比などに影響する懸念が有ります。
管尻穴の形状について
管尻穴径は、竹材の内径(平均径)の60~65%のサイズになるように穴加工を行ってください。
管サイズの主音(最低音)が目標値より高くなると、以後の修正ができない為、最初はできるだけ管尻穴径を小さめに設定するようにします。
管尻穴無し(オープン)タイプは、適正サイズ形状(反射板~管尻間)をそのまま適用します。
 歌口部の加工
歌口側の切断位置は任意の寸法となりますが、最小でもコルク(反射板)の厚みと、反射板~歌口間の寸法を加算した長さが必要です。
全体のバランスを考えると頭部管(歌口~端面間)は、50~70mm程度が良く、端面に竹製の蓋(ふた)を取り付けるとさらに見映えが良くなるかも知れません。
歌口のサイズ設定は、音量と最適なオクターブチューニングを得る為には重要です。F~Gスケールの管サイズでは、φ11~12mm位の穴、或いはその範囲の楕円形(横長)としています。
又、反射板から適切な位置に設定する必要が有り、当初はモダンフルートの設定(内径φ19mmに対して17mmの位置)を参考にその内径比から算出していましたが、現在は、Mark Shepard 氏の資料 を参考に歌口位置の設定(フルート内径の2/3の値)を採用しています。
歌口の内側は丁寧に面取り加工(アンダーカット)を行い、音が掠(かす)れたりしないよう壁面はできるだけ綺麗に仕上げ、息の当たる部分のエッジ形状は、歌口の中心線に対して若干(7 ~ 8°)傾斜して加工するように意識します。
反射板として使用するコルクは、右図のようなものをホームセンターで購入しました。
これは低品質なコルク栓(サイズ:φ23mm×φ20mm×長さ21mm)なので比較的安価に購入することができます。

適切な位置に歌口を設けた後、このコルクを歌口部の内径より少し大きめの円筒形に加工してから、反射板の正しい位置まで挿入します。 コルクの収縮のみで歌口部に固定される為、円筒形の外径を細くし過ぎないようにします。
 Step-5. ベースサイズの主音(最低音)ピッチを確認
ここでは、暫定的に作成されたベースサイズの音高を確認してさらに正確なスケールサイズに仕上げます。
下図のように歌口穴と管尻穴のみ加工した状態で音を出し、その管サイズがこれから作成するフルートのターゲット周波数値(この場合は、F4≒349.2Hz)に対してどの程度の音高になっているかを `楽器用チューナー´ で確認します。
使用するチューナーは、どの様なタイプでも構いませんが、ここでは、Windows用フリーソフト(下図)を使用し、アナログ表示(針の振れ)とデジタル表示(周波数値)を目視して音高を確認しています。
SoftTuner による音高測定
ここまでのガイダンスに沿って、ベースサイズを作成すれば、最初の測定値は ターゲット周波数値に対して大きな音高の差(ズレ)は無く、チューナーには少し低めの周波数値が表示されると思います。
作成スケールのターゲット周波数値(F4≒349.2Hz)に対し -40 セント 以内で有れば 先ずは成功です。 以後は、管尻穴径を大きく修正したり、歌口周りの微調整を行うことで、さらにピッチを合わせることができます。
適正ベースサイズは、ターゲット周波数値より少し低めの音高(-10セント程度: 346~347 Hz)に合わせることを目標とします。
◆ 管尻穴有りタイプの場合は、基本的に管尻穴径を調節(大きく)することでピッチを合わせるようにします。
◆ 管尻穴無し(オープン)タイプは、管尻側の長さを調節(カット)することでピッチを合わせるようにします。
◆ 反射板(コルク)の位置はこのような簡易フルートでは余りピッチに反映されないかも知れません。
但し、歌口側へ移動させることで若干ピッチは上がると思いますが、オクターブ比が悪くなる可能性が有ります。
尚、竹製フルートは、管内の温度が1度上昇すると3セント程ピッチが上昇するようです。
従って、自身が行うことができるメリカリ技法(歌口と唇の位置関係を変化させ音高をコントロールする演奏上のテクニック)の実用範囲や、現在の気温と演奏時の気温の差を考慮して最終的な主音のターゲットピッチを決めるようにします。
ベースサイズの作成は、フルートの基本形状とその主音(最低音)を決める最も重要で、且つ 難易度が高いプロセスです。
もし、音高がターゲット周波数値の許容範囲よりも低く、その修正の為に管尻穴を最大(内径と同径)まで拡げても改善されない場合や、逆にピッチが少しでもターゲットより高くなってしまった場合は、残念ながら失敗作となります。
尚、作成したベースサイズのピッチが毎回高い(或いは低い)場合は 簡易フルート指穴位置計算表 の上部にある近似サイズ表のセル(赤枠)に該当する値を入力してください。 以後はその値を基に新たなスケール近似サイズ表が作成されます。
因みに、この表の初期値(default)は、私が作成したF管フルート適正ベースサイズの実測値(420mm)で、近似サイズ計算の基準値となっています。 赤枠で示した`F´ のセル内には、任意に設定した歌口~反射板間の寸法値(15mm)を考慮した値、即ち、管尻 ~歌口間の寸法値(420-15=405mm)が 入力して有ります。
 
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