パーツ・アセンブリの解体 タンポの作成
ジョイントコルクの補修 タンポの取り付けと隙間調整
タンポの基本構造 キーの組み立て
プロローグ
 このページは、自己流で行ったクラリネットのリペア(修繕)についてまとめたものです。
以下のコンテンツは、あくまでも個人が行ったリペア手段としての一例です。
Yahoo!オークションで、NIKKAN(日本管楽器製)の古いクラリネットを入手しました。
入手時の状態 ( 560円で落札) ベル表面の刻印
ベル表面にある刻印で、製造年がある程度判別できるのかも知れませんが、今のところ詳細は不明です。(多分、1970年以前のものではないかと推測)
タンポは取れたり破れたりしており、ジョイントコルクの嵌め合い部分が緩くすぐに抜けてしまう状態ですが、損傷箇所や不足しているパーツは無いようです。
クラリネットを手にするのはこれが初めてなので、今のところ満足な音出しも儘(まま)なりません。
このような状況でリペアを行うのは些か無謀だと思うのですが、別ページのフルートのリペアで経験した各スキルとの共通点(タンポの補修等)を拠りどころに、これも自己流のものとなりますが`クラリネットのリペア´に挑戦してみたいと思います。
パーツ・アセンブリの解体
YAMAHA ANATOMY OF THE CLARINET
 先ずは、取り外し可能なすべてのパーツ・アセンブリを解体し、トレーを使って大まかに分類しました。
左側のトレイは上管部、中央は下管部のキーレバー類
キー等の金属パーツは専用の磨き剤を使用してサビ・くすみを落とし、本体の汚れもこの際、綺麗にクリーニングしました。 又、古くなって使い物にならないジョイント・コルクとタンポはすべて取り除きました。
コルクは強力な接着剤で貼り付けて有る為、ペンナイフで削って除去ました。 タンポはシェラックで固定されていますが、殆どのタンポは千枚通しで簡単に除去できました。 但し、大きなものは、しっかり固定されており、タンポ皿を熱してから取り除くようにしました。
ジョイント・コルクの除去 タンポの除去
ジョイントコルクの補修
 ジョイントコルクが縮んで硬化しており、簡単に抜けてしまう状態なので補修(自己流)を行います。
① コルクシートの入手

近所のホームセンターで、コルクシート(厚さ2mm)を購入しました。
先ずは、幅11mmに切り取り適量を用意します。
② コルクを溝に固定する

コルクの先端部分を図のようにクサビ形に加工し、予め接着剤(ボンド17)を塗布した溝に沿って巻き付けオーバーラップさせて接着します。
乾燥接着後、不要部分をナイフで切り落とします。(*)
* コルクシートを本体の溝に確実に密着させる為、大きめの洗濯ピンチ(複数)でコルクを均等に押さえるようにし接着乾燥を待ちます。 接着後は、オーバーラップした不要部分を切り落としナイフと平ヤスリを使って修正します。
③ コルク外径の荒削り

加工の際、本体を傷付けないよう養生テープ(ビニール)を巻きます。外径寸法を少しずつ削り、目標の径寸法に近付けます。
外径の肉厚が偏らないよう均等に仕上げるようにします。
④ コルク表面の仕上げ

目標の径寸法近くまで外周を削ったら、以後は、木工用メッシュヤスリ(#600)で表面を滑らかに仕上げます。
③~④の手順は、削り過ぎないように慎重に行います
⑤ ジョイントの度合いチェック

該当する穴径に仕上げ部分を宛(あて)がい、ジョイントの度合いをチェックしながらさらに修正を加えます。
⑥ はめあいの微調整

好みのキツさ(はめあい公差)になるよう微調整を行います。
コルクグリスを塗るのは、はめあいの程度を確認してからにします。
コルクシートは粒が細かく滑らかな材質が好ましいのですが、入手が困難な為、今回は安価なもの(中粒)で代用しました。
前記のマウスピースとバレル(俵管)と同じ要領で、上管部とバレル、上管部と下管部、下管部とベルの各ジョイント・コルクの補修を行いました。
ジョイントコルク各部の補修完了
タンポの基本構造
 タンポを作成するにあたり、取り外した古いタンポの基本構造を調べてみました。
このクラリネットには大きさの違う4種のタンポが取り付けられています。 タンポを包み込んでいるスキンは老朽化し脆(もろ)くなっており、簡単に剥がすことができました。
タンポの基本構造はすべて同じで、下図のようにフェルト製パッドとボール紙、それにスキン(1枚重ね)で構成されています。 スキンを剥がしてもフェルトとボール紙が接着剤で張り合わせて有り、フルートのように簡単に分離させることができませんでした。
タンポの基本構造:オリジナル
各キーのタンポ皿(内側の径)を測定すると、大きい順から、φ16mm、φ15mm、φ11mm、φ9mm となっていますが、タンポの大きさはそれより若干小さく(約-0.5mm)作成されているようです。
今回はタンポを自作する必要が有りますが、フェルトや台紙を打ち抜く工具(革抜きポンチ)のサイズが正寸のものしか入手できない為、やむを得ず、タンポ皿内径のサイズより1mm小さいタンポのサイズとしました。
従って、今回作成するタンポのサイズは、大きいサイズから順に、A(φ15mm)、B(φ14mm)、C(φ10mm)、D(φ8mm)に設定、内訳は、下管用のA(3個)、B(1個)、C(2個)、上管用のD(11個)の合計17個です。
通常タンポの厚みにはバラツキが有り、長期間の乾燥放置による収縮を考慮しなければなりませんが、3.2~3.8mmと推測しています。
下図は、このクラリネッットの為に新しく作成するタンポの基本構造を示しています。 ここでは、ボール紙の替わりにコルクシートを使用しました。
タンポの基本構造:新規作成
必要な厚みに合わせる為、フェルト(厚さ2mm)とコルクシート(厚さ1mm)、それにスキンを糊付けする為のコピー用紙の順に重ねたものをスキンで包み込む構造としました。
この図では示されていませんが、タンポ本体は紙製のシム(shim)を介し、シェラック(shellac)と呼ばれる樹脂製の接着剤(バーナで溶かして使用)でタンポ皿に固定します。 シムの厚みを加減することにより、トーンホールを塞ぐタンポの厚みを適正なレベルに調節することができます。
タンポの作成
 タンポ作成手順
4.1  タンポ用ベース材の作成
基本構造のベース材として使用するフェルト(厚さ2mm)は、フルートやピッコロのリペア(別ページ参照)で使用したものと同じものを使用します。 又、ここでは、オリジナルのタンポで使用されていたボール紙の変わりに、コルクシート(厚さ1mm)を使用することにしました。
① 革抜きポンチを準備

フェルトやコルクシートを正確な円形に切り取る為に4種類の革抜きポンチを使用します。 このような専用下敷きが有ると便利です。(φ15・14・10・8mm)
② フェルトを購入

フェルトは、手芸用品店で購入しました。(180mm角/厚さ2mm)
③ コルクシートの打ち抜き

革抜きポンチでコルクシートを打ち抜き台紙を作成します。
ピッコロのリペアでも使用した厚さ1mmのものを利用しました。
種類毎に必要な個数を作成します。
④ フェルトの打ち抜き

革抜きポンチでフェルトを打ち抜きパッドを作成します。
これも種類毎に必要な個数を作成します。
以下は、今回作成した4種類のタンポサイズ用のベース材です。 フェルト、コルク、糊付け用紙(コピー用紙を利用)を、タンポのサイズ毎に必要な枚数だけ作成します。
⑤ 作成したベース材

左から、タンポA(φ15mm×3個)、B(φ14mm×1個)、C(φ10mm×2個)、D(φ8×11個)用の各ベース材です。
コルクシートは、裏面に糊付けテープが貼って有るタイプなので、フェルト側に貼り合わせるようにしました。 スキン糊付け用の用紙は、タンポサイズと同じ大きさのものを作成します。
4.2 乾燥スキンの作成
タンポ作成の必須材料であるスキンは、別ページにある「フルートのリペア」で使用したソーセージ用の塩漬け天然羊腸の未開封のパックが幾つか残っている為、これを使用します。(詳細はこちら
作成したスキンシート

ガラス面に貼り付け完全に乾燥させてから、1枚づつ丁寧に剥がして写真のようなクリアファイルに挟み込みました。
前記の天然羊腸パック1個で幅40mm×長さ120mm位のスキンシートを14~15枚作成することができます。
表面の各所に白く濁った汚れができていますが、多分材料に含まれる粘性の成分が乾燥したものと思われ使用上の問題は無いと考えます。
4.3 スキンを円形に切り取る
基本構造(フェルトとコルクシート)を包み込む為に必要なスキンサイズを暫定的に決めました。タンポ表面の面積と厚み分、それにスキンを貼り合わせる糊しろを考え、タンポA(φ30±2mm)、タンポB(φ30±2mm)、タンポC(φ25±2mm)、タンポD(φ22±2mm)としました。
スキンをカッターで切り取る際のガイド(治具)として硬貨の外周を利用した為、各スキンのサイズに近いものを選択しました。
タンポAとB→TUKUBA EXPO'85 等の記念500円硬貨(φ30mm)、タンポC→通常の500円硬貨(≒φ26mm)、タンポD→10円硬貨(≒φ23mm)の各外径寸法を採用しました。
① スキンサイズに切り取る

例えば、タンポCのスキンサイズは、10円硬貨の外周に沿ってカッターで切り取ります。 できるだけ汚れ(キズ)の少ない部分を選択します。
② 作成したスキン(3種類)

1シートでこれらのタンポサイズが4~7枚作成できます。図は作成した3種類のスキンです。
該当する切り抜き用ガイド治具(硬貨)を使用してそれぞれ必要な枚数を作成します。
尚、今回はタンポの耐久性を良くする為、`2枚重ね´仕様としました。従って、作成するスキンの枚数は、AタンポとBタンポ用(φ30mm)を8枚、Cタンポ用(φ26mm)を4枚、Dタンポ用(φ23mm)を22枚の合計34枚となります。
タンポ作成時に失敗が有るかも知れないので、できればサイズ毎に2枚程多く作成しておきます。
4.4 タンポの作成(基本構造の糊付け)
先に作成したタンポの基本構造(フェルト、コルクシート、コピー紙の順に重ねたもの)をスキン(羊腸)で包み込み、少量のでんぷん糊で貼り合わせます。
治具を使用したタンポの作成
この作業では、下図のような専用治具(厚さ4~5mmのアクリル板などに円形のガイド穴を開けたもの)を使用しますが、フルートやピッコロのタンポを自作した時の治具がそのまま利用できそうです。
専用治具(ここでは直線定規を加工)
スキンの糊付けで使用する工具(ヘラ)は、ステンレス製の丸棒(φ4mm×長さ180mm位)の先端をハンマーで平らに伸ばした後、このような形状に加工しました。 マイナスドライバーの先端を斜めにしたような形状で角がないようにR面取りを行います。
自作工具によるスキンの糊付け
詳細は、フルートのリペア(タンポの補修手順)、又は、ピッコロのリペア (タンポの作成手順)の各ページを参考にしてください。
今回作成したタンポ

写真は今回作成したタンポで、左からA(φ15mm×3個)、B(φ14mm×1個)、C(φ10mm×2個)、D(φ8mm×11個)です。
市販の天然羊腸から作成するスキンの耐久性が少し心配なので、念の為にすべて`2枚重ね´仕様のタンポとしました。
作成する個数が少なかった為、タンポA(φ15mm)とB(φ14mm)は、フルート作成時の治具ガイド穴(φ16mm用)を利用しましたが、やはり専用のガイド穴径のものでないと使い難いようです。
タンポの取り付けと隙間調整
 タンポとトーンホール間の隙間を確認して、タンポを各キーのタンポ皿に固定します。
今回は自作のタンポを使用しますが、現時点では未だこのクラリネッットの適正なタンポの高さが不明なので、取り敢えずタンポがトーンホールを塞ぐポイントが適正かどうかを見極める為に、取り外しが容易な下管部の№1キーを利用しました。
① シェラックの準備

タンポ皿にタンポを固定するには、シェラックと呼ばれる樹脂製の接着剤を使用します。 このようなスティック状になったものを細かく削ります。
② シェラックを溶解

タンポ皿にほんの少量のシェラックを乗せ、バーナー(ライター等)で加熱溶解します。 火傷の懸念がある為、工具を使用してキーをホールドする方が賢明です。
③ 台紙を固定する

タンポサイズに切り取った台紙(シム)をタンポ皿に固定します。
ここでは、官製ハガキを使用しましたが、タンポとトーンホールの当たり具合により紙厚を調節します。
④ タンポをセット

タンポ皿に新規タンポを入れます。
但し、未だスキマの有無を確認していないので、先ずはタンポを仮接着の状態(*)にしてキーを組み立てます。
* キー組み付け時やスキマ確認の際、タンポが抜け落ちたり位置が変わってしまわない程度(少量のでんぷん糊)の接着にしておきます。
⑤ スキマを確認

薄いスキミゲージをタンポとトーンホールの間に差し込み、キーを閉じた状態でタンポ皿全方向のスキマの有無を確認します。
ここでは、一定の圧でクランプされているようです。
⑥ 糊付け

キーアセンブリを取り外し、タンポ裏面にでんぷん糊を塗布しタンポ皿の台紙に接着させ固定します。(心配ならもっと強力な接着剤で...)
もし、手順⑤でスキマが有った場合は、手順⑥でのタンポ接着は行わず、該当する紙厚の台紙(シム)をもう1枚追加糊付けし、キー組み立て後、再度スキマの有無を確認します。
クラリネットの場合は、トーンホールのタンポ接触面が細く(尖った)なったような形状をしており、又、ホール径も概して小さい為、どのキーも比較的調整が容易かと思われます。 又、これも独自の見解となりますが、小型のタンポは最初は少し厚めに設定しておき、キー取り付け時に押さえ込むことである程度の気密性が得られるようです。
勿論、タンポ表面が同時にトーンホールを塞ぐような調整方法が基本で有り、タンポ後部(キー支点側)が先にトーンホール面に接するような状態は良く有りませんが、タンポ厚を適正に設定すれば、手順⑤で図示されるようなシビアなスキマ調整(全方向)を行う必要は無いのかも知れません。
タンポは、シェラックを使用して直接タンポ皿に固定する方法が一般的のようですが、熱により膨張したり変形する懸念が有る為、個人的な好みとなりますが、適正な厚みの台紙(シム)を介してタンポを接着する方法で、各キーの組み立て調整を行いました。
下図のように、先ずタンポ皿の内側に台紙をシェラックで固定してから、その台紙表面にタンポを糊付け接着するようにします。
タンポの取り付け
キーの組み立て
 キーアセンブリの組み立てを行いますが、作業は前項(タンポの取り付けと隙間調整)と同時に進行します。
クラリネットのキーメカニズムは、管体の表面積が広いことも有り、フルートやピッコロ等と比較すると各パーツが独立して配置されている箇所が多く、タンポの隙間調整に於ける組み立て(取り外しも)が楽なように思われます。
とは言え、クラリネットのキーやレバー等のパーツを解体するのは初めての為、下図のようにキー毎に番号付けを行うことで再組み立てに備えました。
(下管 キーNo.) 拡大図 (上管 キーNo.) 拡大図
通常、キーメカニズムを持つ木管楽器のキーの揺動部は、小さなネジ付きシャフト(ピン)や小ネジで固定されていますが、各パーツの組み立て順序によっては、以後の組み立て作業に支障が出る場合も有ります。
ここでは取り敢えず、管の表面寄りの位置に有るキーや、タンポ隙間の調節がし易い位置にあるものを優先することにしました。
又、ネジ付きシャフトは、取り付け場所により微妙に長さの違うものが有り(特に上管部に)、私のような俄(にわか)リペアマンの場合は、予め、それらを適正なキー位置に取り付けておけば、作業をスムーズに行うことができます。
キー、又はレバー毎に適正なネジ(シャフト)を取り付けておく
尚、このページで紹介している組み立てや調整の順序は、成り行きで行ったもので根拠のあるものでは有りません。
【下管キーの組み立て】
キー № 取り付け位置   バネの設定
№ 2 クローズ(
№ 1 オープン(
№ 7 レバーを上げる
№ 3、№ 4 № 3 : オープン(

№ 4 : クローズ(
№ 6 クローズ(
№ 5 オープン(
№ 8、№9 № 8 : № 1キーに連結

№ 9 : № 2キーに連結
【上管キーの組み立て】
キー № 取り付け位置   バネの設定
№ 10 クローズ(
№ 14 クローズ(
№ 11 クローズ(
№ 19、№20 クローズ(
№ 15 オープン(
№ 13 オープン(
№ 17 クローズ(
№ 18 クローズ(
№ 16 オープン(
№ 12 クローズ(
№ 21 クローズ(
エピローグ
 これにて、初めて行った自己流のクラリネットのリペアが完了しました。
クラリネットに於けるタンポとトーンホール間の隙間調整は、フルートのリペアで経験したようなシビアなスキルは必要ないように思えました。
クラリネットのリペアは、今回が初めてとなりますが、各キーの取り付け位置も判別し易い為、再組み立て作業も比較的スムーズに行うことができました。 又、自作のタンポは、フルートやピッコロのリペアと同様に問題無く使用することができました。
入手時に付属していたリードは、多分、30年以上経過したもの(しかも、赤の他人が使用していたもの)なので、当然そのまま使用することはできません。 新品のリードを1枚購入し、早速マウスピースに装着して音を出してみました。
このクラリネットは、B♭管で最低音は、記譜上のLow E (実音はD3)まで出すことができます。
クラリネットのようにリードで発音する楽器(閉管楽器)は、今のところ演奏が不得手な為、未だ十分な音域での音チェックを行うことができませんが、一応、フランス民謡 「フレール・ジャック」」の8小節の音出しに不都合は無いように思われます。
リペア完了!
Clarinet Repair by Shuji Kusakabe
inserted by FC2 system